CYCLES NANGO / FUNKY POTATO 2001


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世界を走る”E・Tのクワハラ”

自転車業界浮上の仕掛人「BMX」
プロが磨いた技術
途上国でも人気高まる

  • 日刊ケイザイ
  • 昭和58年(1983)6月6日

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━━━この人に聞く 桑原商会 桑原拓男社長

  •  子供たちだけでなく、大人にも世界的な人気を集めた映画「E・T」。このE・Tブームに乗って世界へその名を轟かせた企業が、ここ大阪にある。すでに”世界のクワハラ”の異名をとる自転車メーカーの桑原商会(本社:大阪市東成区、桑原拓男社長)がそうだ。この映画に登場した同社製のBMX(バイシクル・モトクロス)は、その魅力をいかんなく発揮して世界中のE・Tファンを魅了。”世界のクワハラの名を不動のものにした。それでなくとも不景気風に湿りがちな自転車業界が、浮上の仕掛人として今後に期待していたBMXブームである。またとない世界的なE・Tブームに便乗して、業界の活気を取り戻したいと期待したのは当然のこと。そこで「たまたま当社のBMXが採用されただけ」と謙遜する桑原社長にE・Tブームのもたらしたさまざまな影響と今後の課題について聞いてみた。

━━━個性化の時代に対応 世界各地でレース開催

  •  -----何かと話題の多かった映画「E・T」のブームもようやく終わりになろうとしていますが、「クワハラ」ブランドBMX車が映画に登場した宣伝効果の程はいかがでしたか桑原 数字的に輸出が何%増えたとか、国内で何台売れたとかいうことはまだ把握していませんが、増えたのは確かですね。
  • 桑原 まあ、もともと数字的には大きな伸びを期待していたわけではありませんがね。ただ予想以上だったのは、このE・Tブームを通じて”E・Tのクワハラ”という名前が世界的に知られるようになったということです。これまでにも自転車に関しては”世界のクワハラ”という自信はあったのですが、それに加えて”E・Tのクワハラ”という大変な宣伝効果があったのは事実です。
  •  当社は現在、全体の97%を輸出していますが、これまでの輸出先の中心はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどでした。ところが、映画を通じての宣伝効果があってか、東南アジア、中近東、南米など途上国での人気が目に見えて高まっていますね。当社も資金的なバックアップはしていますが、これらの地域にあるディーラーが中心になって月1回の割で”クワハラカップ(競技会)を開催するなど、積極的な動きが目立ってきました。
  •  もちろん、ヨーロッパからも新たな聞き合いがくるようになったのも映画の影響と思われます。ヨーロッパ
  • の自転車といえば、ロードレースが人気の中心で、BMXはあまりやってはいなかったんですね。そrが、今回のE・Tブームにより、BMXブームが徐々に起こりつつあるようです。
  •  -----日本国内での影響という点ではどうなんですか。
  • 桑原 テレビや新聞などのマスコミにもいろいろ取り上げていただきましたので、宣伝効果が予想以上に大きかったのは、海外と同様です。これまで、”世界のクワハラ”という自負はあっても、国内販売はほとんどしていませんでしたから、日本ではクワハラを知らない人がほとんどだったと思います。しかし、E・Tブームを契機に「映画で使われたBMXをつくっている会社」として日本の皆さんにもかなり知ってもらえるようになりました(笑)
  •  しかし、残念なことは、日本全国を席巻したE・Tブームを業界あげて期待した大規模なBMXブームへと結びつける力が今ひとつ弱かったのではないかという不満が残ってしまったということです。
  •  確かに、映画をみた子供たちの気を引いて、ある程度BMXブームをつくりあげたとは思いますが、「危ないから、いりません」と決めつける親の厚い壁を突き破るところまではいきませんでしたね(笑)
  •  元来BMXというのは、道なき野原をジャンプしたり駆け巡るラフなスポーツですから、どうしても親の反対が多いというか、理解が得がたいようです。また、受験競争の関係で、自転車に乗って遊んでいる余裕なんかないといくことなんでしょうね。その点、家族ぐるみレースへ行って楽しんでいるアメリカ、オーストラリア、カナダなどは大変な差を感じます
  •  去る3月20日には、映画に合わせてクワハラ”E・Tスペシャル”というイベントを開催したのですが、もともと熱心なライダーは全国から多くの参加がありました。ところが、やはりというか、期待していた父兄など一般参加が非常に少なかったんです。残念なことですが(笑)
  •  -----そのあたりの評価というのは難しいところでしょうが、半面いつまでもE・Tブームに頼ってまかりではダメなのも事実では?
  • 桑原 もちろん、そうです。昨年12月以降の約6ヶ月間というのは、BMXを宣伝する一つのチャンスでしたからE・Tブームへの期待は当社だけのものではなく業界あげてのものでした。しかし、所詮は、映画のブームがいつまでも続くとは思っていません。E・Tに頼らず、独自のBMXブームをじっくりと作り出していく努力が大事ですね。
  •  -----そのために対応策について何はいい方法がありますか。
  • 桑原 E・Tブームを機に今までになく盛んになりつつあるBMXブームを維持するためにも、当社としては世界各地でのレース開催による宣伝に力を入れていくつもりです。しかも、製品としては、つねに新しいモデルの開発に力を入れていくことが最も大事になってきていると思います。
  •  自転車というのは、自動車などと違って、モデルチャンジということがあまりなかったものです。しかし、ここ数年来、自転車においても少量多品種生産の傾向が強まっているのが実情です。メーカーにとって、この少量多品種生産、すなわち消費者ニーズに応じた新しい型をどんどん開発し、そして生産していける態勢をいち早く作り上げる事が重要な課題になっているわけです。
  •  今まででしたら一品種に2千台の注文、●●の注文というのがほとんどでした。が、BMXライダーの製品に対する注文が厳しく多様化してきたためでしょうね。70台とか●●というようにロットがちいさくなってしまいました。そのうち高級品ほど部品の和もおおくなりますから、生産までの段取りと●●●kとが非常に難しくなってきましたね。しかし、それがこなせないようではBMXブームは維持できません。
  •  -----ちなみに、現在の「クワハラ」ブランドだけでどのくらいの品種があるんですか。
  • 桑原 特別車、スタンダードもの合わせて約20種類ぐらいありますかね。大体が1台14、5万円もするような高級車ばかりで、世界的にみても一番高価な部類にはいるんじゃないでしょうか。
  •  というのは、当社の製品は本来、BMX競技のプロ用として生産していますので、プロのきめ細かな厳しい目に耐えうるような本物づくりを目指している関係上、どうしても効果になってしまうんですね。しかも、「クワハラ」の製品を製造している社員自身、国内のトップライダーですし、本場アメリカに----当社はプロの”クワハラナショナルチーム”を持っていてプロレベルの実力の持ち主ばかりです。こうしたその道のプロが--に技術改良に力を注いでいるわけですから、他社に負けない最高の物をつくれるという自信はあるんです。「クワハラ」人気の秘密はまさにこの品質の高さです。
  •  -----だからこそ、スピルバーグ監督の目にとまったんだと思いますが、BMXを含め今後の自転車づくりの見通しのようなことについて何か?
  • 桑原 どこの業界でもそうでしょうが、これからの世の中はやはり個性化の時代ですね。自転車も例外ではありません。先ほどからの少量多品種生産にみられるとおり、いろんなタイプの自転車がはやって当然だと思います。
  • ですから、BMXなんて、あくまで柱の一つですよ。今後、BMXにあきたらない人達はさらに新しい型の自転車を求めるようになるかもわかりませんし、現に、アメリカ西海岸では、”マウンテンバイク”という新しいタイプの自転車が人気を集め始めています。野原や高原を走るための自転車という点ではBMXとだいたい似ていますが、BMXに比べ、サイズが大きく、変速ギアもついていて、車体もかなり軽いのが特徴ですね。また、BMXのように、競技に使用するという性格のものではないわけですよ。当社でも、昨年から生産を始めています。
  •  さらに最近は、シティーサイクルというものはやっています。ミニタイプで、しかもカラフルできれいな軽快な自転車です。若い女性などが、ファッションの一つとして、自分の服装に合わせ、あるいは街並に合わせて乗るわけですよ。今や、自転車も広い意味でのトータルファッションの中に入ってしまったということです。
  •  自転車にもいろいろな楽しみ方があるものですし、それに応じていろんなタイプの自転車がどんどん考えだされてくるものと思います。個々の企業にとって大切なことは、そうした多様化するニーズをいかにしてこなし切るかということだと思いますよ。
  •  -----その場合に、桑原商会の基本方針について。
  • 桑原 今後とも、世界のトップレベルをいく最高級品を目指すという方針には変わりありませんし、高級品となれば、そう数をこなせるものじゃないですからね。それこそ、少量多品種生産こそわが社の生きる道だと考えています。
  •  そして、今まで国内で無名に近かった「クワハラ」の名が、せっかく知られるようになったわけですから、これを機会にMBX専門店などに宣伝をかねて置いてみようかな。と考えています。もちろん、当社の主たる活動の場は海外であることにはかわりないですがね。
  •  だから、海外を舞台とする以上、機会あるごとに”世界のクワハラ”のイメージアップには努めるつもりですよ。今まで、海外で日本のブランドのついた自転車が出回ったのは、当社以外にないんですからね。しかも、「クワハラ」という日本語がそのままブランドとして世界へ通用している。これこそ、当社の誇りと考えています。

━━━BMX車(バイシクル・モトクロス)

  •  従来の自転車と違い、野原などを自由には知り回れるように車体が頑丈につくられているのが一番の特徴。7、8年前頃からアメリカ、カナダ、オーストラリアなどでブームとなり、日本では4、4年前から徐々にブームとなり始めた。現在、世界各地で数多くのレースが開催されており、---アメリカではBMXプロも多数活躍している。日本では1.レース場となる●●が少ないこと 2.小学生、中学生、高校生などのブームの担い手が受験勉強に追われ●●であることなどが、ブーム拡大の大きな障害となっているのが実情といわれる。