━━━ 一躍、子供に大人気
- 大阪で生まれた自転車が、国際舞台で脚光を浴びている。今、宇宙人と少年たちとの〝友情〟を描いたSF映画「E・T・」が、日本中でブームを巻き起こしているが、この映画のクライマックスに登場するモトクロス用自転車「KUWAHARA E・T」がそれだ。名監督スティーブン・スピルバーグの手によるこの映画、去年の夏アメリカで大ヒットし、日本へ上陸したものだが、アメリカのレーサーたちの間でこの自転車が注目のマト。その波が日本にも押し寄せ、おかげでこの自転車をつくった大阪の自転車メーカー、桑原商会はてんてこ舞いの忙しさ。次から次へと来る注文に生産が追いつかない状態だ。映画の中に出て来る商品が流行するのはよくあることだが、さて、この〝SF自転車〟、いったいどこまで翔んでゆくのだろうか。「KUWAHARA E.T」が〝ものを言う〟のは最後の場面。地球上を独りだけとり残された宇宙人を、なんとか宇宙へ返してやろうと思った少年たち。この自転車に宇宙人を乗せ、追いかけて来る大人たちから逃げ回り。ついには迎えに来た宇宙人の〝超能力〟によって空へ舞い上がるという心あたたまるシーンだ。
- この自転車をつくった桑原商会は、大阪市東成区に本社を持つメーカーで競技用の自転車などスポーツ車を主に生産、全世界に向けて製品を送り出しており、輸出が全体の97%を占める輸出専門メーカーである。 同社の生産するモトクロス用の自転車は「BMX」として親しまれており、アメリカでは毎年「BMX」によるレース「クワハラ・グランド・ナショナル」を主催しているが、自らレーシングチームをもっており、昨年のレースでは1300人の選手が参加、観衆は2万人を超えた。またカナダ、オーストラリアでもレースを主催するなど、海外では名の通ったメーカーである。
- 今回、この「BMX」が映画に採用されるに至ったいきさつはこうだ。スピルバーグ監督がこの映画をつくるにあたって、出演する子供たちに「どこの自転車がいいか」と聞くと、「KUWAHARA」と指名、ユニバーサル映画会社桑原拓男社長のところへ「使わせてほしい」という依頼があったのが、おととし(’81)の2月。
- そこで桑原さんは、アメリカの代理店であるエブリシング・バイスクル社のコーヘン社長を通して話をまとめ、40台をスタジオへ持ち込んだ。この自転車にスピルバーグ監督が、ちょっとした〝味つけ”。赤いボディーの二ヶ所を白くぼかし、映画の名前にちなんで「KUWAHARA E・T」と名付けたわけ。
- そしてこの映画が去年6月、アメリカで封切られると同時に大ヒットとなり、この「KUWAHARA E・T」に目が集まった。「うちの自転車は、他社のものと較べて少々値段が高いので、子供たちにとっては手が届きにくく、言ってみればあこがれのマト。このあたりが指名されたひとつの理由だったかもしれません。いずれにしても世界的な大宣伝になりました」と、桑原さんは大変な喜びよう。
- 去年、7月の試写会で観たそうだが「今までにない映画だ。何が引きつけられるものがある」と、スピルバーグ監督の腕にすっかりほれこんでしまい、映画などテレビでしか観なかったのが、一夜のうちに大の映画ファンになってしまったとか。
- この映画、昨年暮れに日本で封切られたが、いまや若者たちの間では大変な人気。日本では、アメリカほどモトクロスは盛んではないものの、それでも注文が殺到、フル稼働しているという。宇宙人と少年たちとの〝友情〟という、ちょっと味の違うSF映画の魅力が、この「KUWAHARA E・T」に乗り移ったようだ。これまでアメリカで1万台売れ、月産5千台ペース。日本では3万台を期待しているが、〝映画が翔べば売れ行きも翔ぶ〟というわけで、ここしばらくは映画の行方から目が離せないところだ。