━━━スピルバーグのSF大作「E.T.」
- 宇宙人?と地球の子供たちとの交流を描いたこの映画の見せ場で、特撮ながら空中飛行という離れワザを演じ、記録的ヒット中のアメリカで観客の大拍手を浴びているのだ。この自転車、日本ではなじみの薄い輸出中心のモトクロス用だが、製造元の大阪・桑原商会では同監督から「E.T.」じるしの使用OKもとっており、ウハウハの増産態勢だ。
━━━売り上げ4割増だ、大阪の中小企業ウハウハ
- 「スピルバーグ監督からご指名があったのは昨年2月だった。早速、50台を送ったが、こんな結果になるとはおもいませんでしたね。今年は映画の自転車、BMX(1台5万円)を昨年の倍の6万台生産する他、タイトル使用を許されたので、新しくET号(1台7万5千円)も作って需要に応じたいと思っています」というのは、大阪市東成区大今里に本社を持つ桑原商会の桑原拓男(39)。同社は大正8年に設立。拓男社長は3代目。資本金5千万円、従業員70人の中小企業。昨年の総生産台数は17万台だが、その98%が輸出だから国内ではほとんど知られていない。それが映画「E.T」にBMXが採用されたことで、ガ然、世界の脚光を浴びることになったのだ。年商50億円、来年は70億円を突破するだろうという。
━━━ジョーズ抜く!
- その問題の映画「E.T」(THE EXTRA---TERRESTRIAL)。日本語にすると大気圏外の生物、つまり宇宙人のこと。同映画は6月11日からアメリカ、カナダで公開されたが。66日間でなんと約500億円の興収をあげ「スター・ウォーズ」や「ジョーズ」の記録をぶち破ってしまったのだ。日本では松竹が東宝との激しい争奪戦の結果配給権を獲得、12月4日から正月映画として公開するがそれに先立って行われている試写会はいつになく超満員。 そして、自転車使用の見せ場。少年たちが宇宙人をBMXに乗せて、パトカーや白バイの追跡から逃れる。ついに追い詰められて観客の誰もが「あ、ダメだ」と叫びたくなる瞬間、少年たちと宇宙人を乗せたBMXが空に舞い上がり、森を越え、谷を越えて目的地降り立つ。そのときの拍手は、まさに割れんばかり。いわば、BMXはもう”一人”の主役なのだ。
━━━日本に逆上陸?
- 世界のスピルバーグ監督が、このBMXを採用したのはヒョンなことからだった。この映画の準備をしているとき、ロスの自宅前の広場で遊んでいた少年たちに「いま一番人気ののある自転車はなんだ?」とたずねた。と、少年たちは一斉に自分達の自転車指さして「これだよ、オジサン、何も知らないんだね」と笑ったという。その自転車こそデザインの荒い、太いタイヤのモトクロス用BMXだったのである。スピルバーグ監督は早速、エージェンシーを通じて桑原商会に使用許可を申し入れ、同時に、普通の半値くらいのロイヤリティー(推定5%)で桑原商会に「ETじるし」の使用をOKにしたというわけ。今、アメリカ、カナダの各劇場にBMXを展示、また、新聞、雑誌などでも取り上げているためBMX人気は急上昇。モトクロス車が流行していない日本でも、映画上陸を機にブームが起こるかもしれない。
━━━ほとんどが輸出 モトクロス用BMX
- 日本の自転車総生産台数は56年度を例にとると、60社で660万台。そのうち輸出が105万台だ。660万台のうち120万台は大手のブリヂストンが生産している。映画に使用されているモトクロス用BMXは道路などの事情からほとんど需要がなく輸出用として作られている。